笑顔相続

路線価が5年連続で上昇。5年前につくった分割案は、まだ有効ですか

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税理士の森田です。
7月1日、国税庁から令和8年分の路線価が公表されました。

全国平均は前年比プラス2.9パーセント。5年連続の上昇で、上昇率としては現在の算出方法になった2010年以降で最大です。
ニュースでは「地価上昇」として明るく報じられますが、私が今年いちばんお伝えしたいのは、数字そのものではありません。数年前に立てた相続の計画が、そのままでは合わなくなっているということです。

まず、路線価のおさらい

路線価とは、道路に面した標準的な土地の1平方メートルあたりの評価額です。国税庁が毎年7月1日に公表し、相続税や贈与税を計算するときの土地の値段として使います。

大事なのは、その年の1月1日時点の価格だという点です。
今回公表された令和8年分は、2026年中に起きた相続や贈与に使う数字です。今年ご家族に相続が発生した場合、この7月に出た数字で土地を評価することになります。

なお路線価は、3月に発表される公示地価の8割程度を目安に決められています。3月の数字を見ておけば、7月の路線価がどう動くかはおおよそ見えるということです。

令和8年分の数字を見てみます

観光地や再開発が進む地域では、全国平均を大きく超える上昇も見られます。
そして注目すべきは、上昇が都市部だけの話ではなくなってきていることです。下落都市がゼロというのは、地方にも回復が広がっているということを意味します。

5年前につくった分割案は、まだ有効ですか

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。

私はこれまで、多くのご家庭で相続診断や遺産分割のイメージづくりをお手伝いしてきました。
「自宅は長男に、預金は次男に。これでちょうど公平だね」——そうやってご家族が納得された分割案を、一緒につくってきました。

ところが、その前提が崩れています。

たとえば5年前、ご自宅の土地の評価が3,500万円、預金が3,500万円だったご家庭を考えてみます。
「自宅は長男、預金は次男」で、ぴったり半分ずつでした。

では今はどうでしょう。
路線価がこの5年で累積15パーセント上がっていれば、自宅の土地は約4,000万円になっています。一方で預金は3,500万円のまま。いや、ご本人の生活費や医療費で目減りしているご家庭も多いはずです。

つまり、公平だったはずの分割案に500万円以上の差が生まれているということです。都市部ではもっと開いています。

ここでひとつ、専門家として正直に申し上げておきたいことがあります。
そもそも遺産分割は、相続税の評価額で決めるものではありません。本来は時価で考えるものです。
けれども実際のご家庭では、私たちがお出しした財産の一覧をもとに話し合いをされることがほとんどです。だからこそ、その一覧が古くなっていると、話し合いの土台そのものがずれてしまう。数字が動いた年に、私が最も気にしているのはここです。

「もう決めたから大丈夫」ではなく、「決めたからこそ、たまに見直す」。
一度つくった分割案は、3年から5年に一度は数字を入れ替えてみてください。

変わったのは、路線価だけではありません

この数年、不動産をめぐる評価のルールも続けて動いています。主なものを3つ挙げます。

1. マンション1室の評価が変わりました(令和6年1月1日以後)
居住用の分譲マンション1室については、従来の評価額に「区分所有補正率」という数字を掛けて計算することになりました。市場価格との開きが大きい物件、つまり都心の高層階や築浅の物件ほど評価が上がります。背景には、マンションの相続税評価額が市場価格の半分以下になっているケースが多く、一戸建てとの不均衡が大きかったという事情があります。逆に、評価が市場価格を上回っていた物件は下がることもあります。

2. 貸付用不動産の評価が見直されます(令和9年1月1日以後)
令和8年度の税制改正で決まりました。借入をして賃貸不動産を購入し、評価額を下げて相続税を抑えるという方法に対する見直しです。ただし、5年前から所有していた土地の上に建てた家屋については従来の評価が維持される取扱いも設けられており、取得の時期や土地の保有期間によって結論が変わります。

3. 使えなくなった制度、延びた制度
教育資金の一括贈与の非課税措置は、令和8年3月31日をもって終了しました。延長されていません。一方で事業承継税制の特例承継計画の提出期限は、令和9年9月30日まで延長されました。

路線価が上がり、評価のルールも変わり、使える制度も入れ替わっている。
数年前の計画が「そのまま使える」と考えるほうが、いまは不自然です。

落とし穴は「特例があるから大丈夫」

評価が上がったからといって、そのまま税金が増えるわけではありません。
相続税には基礎控除があります。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算するもので、たとえば奥様とお子様2人が相続人であれば4,800万円。財産の合計がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。

ご自宅の土地には「小規模宅地等の特例」もあります。要件を満たせば330平方メートルまで評価額を8割減らせる、非常に大きな特例です。

私が心配なのは、むしろ逆の誤解です。「特例があるから大丈夫」と思い込んでしまうこと。
この特例には要件があります。誰がその土地を相続するか、そこに住み続けるか、そして申告期限までに遺産分割が決まっているか。

つまり、ご家族の話し合いがまとまらないと、使えるはずだった特例が使えなくなることがあるのです。
評価額が上がっている今、この差は年々大きくなっています。

数字が動いた年こそ、家族で話す

私は数多くの相続の現場に立ち会ってきましたが、揉めるかどうかを分けるのは財産の多さではありません。
元気なうちに、家族で話ができていたかどうかです。

路線価の発表は、毎年やってくる少し無機質なニュースです。
でも、これを「うちの土地は、いまこのくらいの評価なんだね」とご家族で話すきっかけにできたら、こんなにちょうどいい話題はないと思うのです。相続の話は切り出しにくいものですが、ニュースを入り口にすれば、ずいぶん軽くなります。

私が目指す「笑顔相続」とは、財産を円満に分けることだけではありません。
感謝とともに想いを次の世代へ手渡すことです。そのために必要なのが「懐の余裕」と「心の余裕」であり、心の余裕は早く動いた分だけ生まれます。数字が動いた今年は、動くのに悪くない年です。

最後に

以前に相続のシミュレーションや分割案をつくられた方は、ぜひ一度、数字の入れ替えだけでもさせてください。
新しい路線価を当てはめ、マンションがあれば区分所有補正率を確認し、賃貸物件があれば改正の影響を見る。それだけで「まだ大丈夫」か「調整が必要」かがはっきりします。

まだ何もつくっていないという方も、「うちの土地はいくらくらいの評価になるのだろう」という段階のご相談で、まったく問題ありません。
ご自宅の場所が分かれば評価の目安をお出しできますし、基礎控除や特例を当てはめて相続税がかかるのかどうか、おおまかな見通しはその場でお話しできます。

計画は、つくったときが完成ではありません。
状況が変わるたびに一緒に手を入れていく。その伴走を、させていただければ幸いです。

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参考資料

本記事の内容は、以下の公的機関の公表資料に基づいています。
制度の詳細や最新の情報は、各リンク先の原典をご確認ください。

※ 本記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な解説です。試算は分かりやすさを優先した単純計算であり、実際の評価額は土地の形状・接道状況などによって変わります。税制改正の詳細や適用時期は個別の事情によって取扱いが異なりますので、判断は必ず専門家にご相談ください。

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