手元に決算書しかない、という方へ ── 5ページの経営計画のすすめ
税理士の森田です。
突然ですが、いま手元に、会社の先のことが書かれた紙は何かありますか。
多くの会社では、答えは「決算書だけ」です。
年に一度、決算が終わってしばらくすると決算書が出てくる。数字は並んでいるけれど、それは終わった一年の記録です。今期がどうなるかは書かれていません。
それでも会社は回っています。社長には現場の感覚があり、資金繰りは通帳を見れば分かる。実際、大きく外すことはめったにありません。
ですから「経営計画を作りましょう」と言われても、正直なところピンとこない。当然だと思います。
決算書は、バックミラーです
決算書は過去の記録です。
よくできた書類ですが、これから起きることは何ひとつ書かれていません。車で言えばバックミラーです。後ろを見るためのものであって、前を見るためのものではありません。
そして厄介なことに、決算書が手元に届く頃には、すでに新しい期が2か月も3か月も進んでいます。
「思ったより利益が出てしまった」と決算後に気づいても、打てる手はほとんど残っていません。数字が分かった時には、もう終わっているのです。
現場の感覚で経営できているうちは、それでも困りません。
困るのは、たいてい次のような場面です。
- 銀行に「今後の見通しを教えてください」と聞かれて、口頭で説明するしかない
- 設備投資や採用を決めたいが、いくらまでなら出せるのか自信が持てない
- 社員に「うちはこれからどうなるんですか」と聞かれて、うまく答えられない
- 後継者や幹部に任せたいのに、任せ方が分からない
どれも、頭の中にはあるのに、外に出ていないことが原因です。
計画書は、社長の頭の中を紙に移す作業です
中小企業の社長は、たいてい先が見えています。
この事業をどうしたいか、あと何年でどうなっていたいか、あの社員に何を任せたいか。かなり明確な絵が頭の中にあります。
問題は、それが社長の頭の中にしかないことです。
社員から見れば、社長の判断は突然やってきます。急に新しいことを始め、急に方針が変わったように見える。実際には一貫しているのに、その一貫性が見えていないだけです。
「うちの社員は指示待ちで」とおっしゃる社長がいます。けれども行き先を知らされていない人は、指示を待つしかありません。
経営計画を作るというのは、難しい理論を学ぶことではありません。
社長の頭の中にあるものを、紙に移す作業です。それだけのことなのですが、あるかないかで会社の動き方はまるで変わります。
まず5ページから
分厚いものを作る必要はまったくありません。
私がお手伝いするときは、まず5ページを目安にしています。埋めるのは、次の5つだけです。
- どこへ向かうのか ── 3年後、5年後に会社をどうしたいか
- そのために何をするのか ── 今期に取り組むことを3つまで
- 数字でどうなるのか ── 売上、利益、資金繰りの着地見込み
- 誰が担うのか ── 誰の仕事なのかをはっきりさせる
- いつ振り返るのか ── 毎月なのか四半期なのか、日を決める
書き出してみると、たいていの社長は1と2をすらすら話されます。もともと頭の中にあるからです。
手が止まるのは3です。ここは私たちの仕事なので、決算書と月次の数字からご一緒に組み立てます。
そして5番目が抜けている計画書が、本当に多い。
振り返る日が決まっていない計画は、作った日が一番熱くて、あとは冷めていくだけになります。逆に言えば、日さえ決めておけば計画は生き続けます。
作ってみると、何が変わるか
いちばん大きいのは、数字が「終わった話」から「これからの話」に変わることです。
決算書しかなかった頃は、数字は年に一度の答え合わせでした。計画があると、毎月の数字が「予定どおりか、ずれているか」を教えてくれるようになります。
ずれに早く気づけば、まだ手が打てます。決算後に気づくのとでは、選べる手の数がまるで違います。
銀行との話も変わります。数字の見通しを紙で説明できる会社は、それだけで扱いが変わります。景気が悪くなったときほど、その差が出ます。
そして社内が変わります。
行き先が共有されていれば、幹部はいちいち社長に確認しなくても方向を間違えません。社長の手が空きます。「うちはこれからどうなるんですか」に、紙を見せながら答えられる。これは想像以上に効きます。
そして、渡す準備にもなります
もうひとつ、見落とされがちな効果があります。
経営計画は、そのまま事業承継の準備になります。
先月、駅伝のタスキにたとえて承継の話を書きました。渡す側だけでなく、受け取る側もずっと準備している、という話です。
では受け取る側は、何を渡されるのでしょうか。肩書きではありません。会社そのものです。今どうなっていて、これからどこへ向かうのか。それが紙に書かれている会社と、社長の頭の中にしかない会社とでは、受け取る側の走り出しやすさがまったく違います。
後継者に引き継ぐときも、幹部に権限を渡すときも、金融機関に説明するときも、使うものは同じです。
数字と言葉で語れる会社にしておくこと。これが、経営を強くすることと、未来へタスキを繋ぐことの両方に効いてきます。私が中小企業支援と事業承継を両輪だと言っているのは、ここでつながっているからです。
自分が育ててきたものを、言葉にして人に渡せる。
その手応えを感じている社長は、次の一年をどこか楽しそうに話されます。私はその顔を見るのが好きです。
一人で作らなくていい
頭の中にあるものを自分ひとりで言葉にするのは、思っているより難しい作業です。
社長は普段、社内では決める側です。迷っている状態のまま話せる相手が、社内にいないことも多い。
当事務所では、月次の数字を挟みながら社長の考えを整理する時間をいただいています。壁打ち相手のようなものです。決めるのは社長ですが、口に出して整理する相手がいるだけで、話の進む速さが変わります。
あわせて、幹部の方向けに数字の勉強会も行っています。一般的な会計の講義ではなく、御社の実際の決算書を教材にします。幹部が自社の数字を読めるようになると、計画は「社長が作ったもの」から「自分たちのもの」に変わります。
まずは1枚目からで構いません。3年後にこの会社をどうしたいか。それを口に出していただくところから始めましょう。
10月15日、セミナーでもお話しします
中央区立産業会館の主催で、10月15日(木)14時から。
「社長、その会社、誰に渡しますか? 〜今日から始める事業承継と経営計画の基本〜」というタイトルです。参加費は無料、先着50名。
承継の話と経営計画の話を、あえて一緒に扱います。別々のテーマに見えて、実は同じことを準備しているからです。
計画書を作ったことがないという方にこそ、聞いていただきたい内容にしています。
決算書だけを見て走り続けるのか、行き先を紙に書いてから走るのか。
その最初の1枚を、一緒に作らせてください。
中央区立産業会館 第1集会室/14:00〜15:30(開場13:30)/先着50名・参加費無料