税務調査の進み方が、変わってきています
税理士の森田です。
先日、ある顧問先の税務調査に立ち会ってきました。遠方だったこともあり、久しぶりに丸一日その場にいたのですが、調査の進み方が以前とはっきり変わっていると感じました。
6月に、国税庁の基幹システムが刷新される話を書きました。9月に本格稼働した「KSK2」です。
今回の調査はそれとは直接の関係はありませんが、あのとき書いた変化が、現場でもう始まっているという実感がありました。
以前の調査は、待っている時間が長かった
従来、帳簿は調査当日にお出しするのが通例でした。
調査官が来られて、総勘定元帳を広げ、そこからページをめくり始めます。気になる箇所で手が止まり、質問が飛んでくる。また、めくる。
私たち立会人は、その間ずっと待っています。
何を見ているのかは分かりません。次にどこを聞かれるかも分かりません。調査官が帳簿をめくる音を聞きながら、ただ待っている時間が、一日のうちのかなりの部分を占めていました。
社長にも、その場にいていただくことになります。いつ何を聞かれるか分からないので、離れられません。
経営者にとって、丸一日拘束されるというのは決して小さくない負担です。
今回は、事前に総勘定元帳を提出しました
今回は事前に総勘定元帳の提出を求められ、こちらもそれに応じました。
そして当日、調査官が来られた時点で、すでに確認したい事項が決まっていました。
帳簿をめくる時間は、ほとんどありませんでした。最初から「この取引について」「この科目のこの月について」と、具体的な話から入ります。
私たちも社長も、その一つひとつに答えていく。待っている時間がなくなり、その代わりに説明している時間がずっと続くという一日でした。
結果として、調査そのものはスリムになりました。
論点が絞られているぶん、余計な確認がありません。社長の拘束時間も短くて済みました。密度は濃くなりましたが、終わってみれば負担は明らかに軽かったと思います。
何が起きているのか
調査官は、来る前に相当程度の準備をしてきています。
以前は、その準備の作業を臨場してから帳簿の上でやっていた。それが事前に済ませられるようになったということです。
背景には、6月の記事でお伝えした流れがあります。
申告のデータが蓄積され、税目をまたいで照らし合わせられるようになり、分析に人手を回せるようになる。KSK2はその土台です。あわせて、税務署の内部事務がセンターに集約され、そこで生まれた余力が調査や分析に振り向けられる方針も示されています。
調査に入る前に、どこを見るかがある程度決まっている。今回感じたのは、そういう変化でした。
身構える調査から、説明する調査へ
こう書くと、身構えられるかもしれません。
けれども私は、これはむしろ良い変化だと受け止めています。
論点が絞られているということは、関係のないところを長々と見られないということです。丸一日、何を探されているか分からないまま待つより、はっきり聞かれて、はっきり答えるほうがずっと健全です。
大事なのは、疑われるかどうかではありません。聞かれたときに説明がつくかどうかです。
税務調査でこじれるのは、悪意があった場合よりも、「なぜこの処理にしたのか」を誰も覚えていない場合のほうが多い。当時は理由があったのに、記録がなく、担当者も代わっていて、結局説明できない。これがいちばん苦しい展開です。
隠すのではなく、説明できるようにしておく。
調査のやり方が変わったことで、この差がはっきり出る時代になったのだと思います。
では、何をしておけばいいか
身構える必要はありません。やることは地味です。
ひとつめは、証憑をデータで残すこと。
請求書・領収書・契約書を、後から検索できる形で保存しておく。「この取引について」と聞かれたときに、その場ですぐ出せるかどうかで、調査の所要時間はまったく変わります。今回の調査でも、探す時間がほとんど発生しなかったのが大きかった。
ふたつめは、記帳を月次で締めること。
毎月数字が固まっていれば、総勘定元帳もいつでも出せる状態になります。決算のときにまとめて処理している会社は、そもそも事前提出に対応できません。
みっつめは、判断の理由を残しておくこと。
少し特殊な処理をしたとき、なぜそうしたのかを一行でも書き添えておく。これが数年後に効きます。私たち顧問税理士がいるのは、まさにこの部分をご一緒するためです。
3つとも、税務調査のためだけの作業ではありません。
証憑がデータで揃い、月次の数字が早く固まる会社は、銀行に説明ができ、来期の計画が立てられ、いざ事業承継となったときにも自社の姿を数字で示せます。先月「決算書しか手元にない方へ」と書きましたが、そこともつながっています。
整えることは、守りではなく攻めです
税務調査への備えというと、どうしても守りの話に聞こえます。
けれども実際に整えていくと、そこで手に入るのは「自社のことを、いつでも人に説明できる状態」です。
調査官に説明できる会社は、銀行にも説明できます。社員にも説明できます。そして次の代にも、渡せます。
私が中小企業支援と事業承継を両輪だと言っているのは、結局のところ同じ準備が効いてくるからです。
調査の連絡が来てから慌てて整えるのは、正直しんどい作業です。
平時のうちに手をつけておけば、いざというときに構える必要がなくなります。むしろ「見てもらって構いません」と言える状態は、経営していて気持ちのいいものです。
最後に
当事務所では、クラウド会計への移行や証憑のデータ化を、実際の運用に落とすところまで一緒に進めています。
「何から手をつければいいか分からない」という状態からで大丈夫です。今の記帳の流れを見せていただければ、どこを変えると一番楽になるかをお話しできます。
税務調査の連絡が来てからでも、もちろんお手伝いします。
ただ、できることなら平時のうちに。そのほうが、ずっと楽です。
※ 本記事は2026年10月時点の情報と、筆者が立ち会った個別の事例に基づく所感です。調査の進め方は事案によって異なります。守秘義務のため、顧問先が特定される情報は記載していません。